ランサムウェア攻撃は、近年、企業や個人に対する重大な脅威として急速に拡大しています。特に「劇場型」と呼ばれる手法は、その巧妙さと狡猾さで注目されています。

本記事では、ランサムウエア攻撃の概要、劇場型攻撃の特徴、具体的な事例、そして対策について詳述します。

ランサムウェア攻撃の概要

ランサムウェア(Ransomware)とは、コンピュータやサーバーのデータを暗号化し、元に戻すための身代金を要求するマルウェアの一種です。攻撃者は、被害者がデータにアクセスできない状況を作り出し、復旧のために金銭を要求します。ランサムウエアの名称は、「身代金」を意味する「ランサム(Ransom)」と「ソフトウェア(Software)」を組み合わせたものです。

劇場型ランサムウエア攻撃の特徴

劇場型ランサムウエア攻撃は、単にデータを暗号化して身代金を要求するだけでなく、被害者のデータを公開することで圧力をかける手法です。攻撃者は、被害者が身代金を支払わない場合、盗んだデータをインターネット上に公開することを脅迫します。この手法は、被害者に対する心理的なプレッシャーを増大させ、支払いを促す効果があります。
劇場型攻撃の主な特徴は以下の通りです。

  • データの公開
    攻撃者は、被害者のデータを段階的に公開することで、支払いを促します。
  • 多重脅迫
    データの暗号化だけでなく、公開やDDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)など、複数の手段で脅迫します。
  • 第三者の巻き込み
    被害者の取引先や顧客のデータも公開し、第三者を巻き込むことで、被害者に対する圧力を強化します。

KADOKAWA社の事例

2024年6月、出版大手のKADOKAWA社は大規模なランサムウエア攻撃を受けました。攻撃者は、子会社のドワンゴが運営する「ニコニコ動画」などのサービスを停止させ、データを暗号化しました。さらに、攻撃者は「BlackSuit」と名乗り、盗んだデータをダークウェブ上に公開することを脅迫しました。この攻撃により、KADOKAWA社は以下のような影響を受けました。

  • サービス停止
    ニコニコ動画や関連サービスが一時的に利用できなくなりました。
  • データ漏洩
    N高等学校やS高等学校の生徒や保護者の個人情報、取引先の契約書などが漏洩しました。
  • 経済的損失
    出版事業の出荷水準が3分の1に減少し、売上高に大きな影響を与えました。

KADOKAWA社は、外部専門機関の支援を受けて情報漏洩の調査を進めていますが、被害の全容解明には時間がかかる見通しです。

劇場型ランサムウエア攻撃の拡大

劇場型ランサムウエア攻撃は、世界中で急速に拡大しています。2023年の調査によると、全世界で約4800件のリークが確認され、そのうち約140件が日本国内の組織に対するものでした1 2。また、ランサムウエア攻撃の被害額は平均で約4億円に達し、前年から1.5倍に増加しています3

攻撃者は、VPN(仮想プライベートネットワーク)やリモートデスクトップの脆弱性を悪用して侵入するケースが多く、リモートワークの普及に伴い、攻撃のリスクが増大しています4

ランサムウエア攻撃の対策

ランサムウエア攻撃に対する効果的な対策は、以下の通りです。

  • 脆弱性の管理
    VPN機器やリモートデスクトップの脆弱性を定期的にチェックし、セキュリティパッチを適用することが重要です
  • 多要素認証の導入
    ユーザー認証に多要素認証を導入し、不正アクセスを防止します。
  • データのバックアップ
    重要なデータは定期的にバックアップを取り、オフラインで保管します。これにより、ランサムウエア攻撃を受けてもデータを復元できます
  • セキュリティ意識の向上
    従業員に対するセキュリティ教育を徹底し、フィッシングメールや不審なリンクに対する警戒心を高めます
  • インシデント対応計画の策定
    攻撃を受けた際の対応手順や計画を事前に策定し、迅速な対応ができるように準備します
企業は特に確実な備えを!

EDR(エンドポイント検出および対応)の重要性

このような攻撃から企業を守るために、EDR(エンドポイント検出および対応)の導入をおすすめします。EDRの重要性について、以下のポイントを挙げます。

1. 早期検出と迅速な対応

EDRはエンドポイント上での不審な活動をリアルタイムで監視し、異常を即座に検出・対応します。HOYA株式会社が不審な挙動を早期に発見し、迅速にサーバーの隔離を行ったように、EDRは迅速な対応を支援する強力なツールです​​。

2. 詳細なインシデント調査とフォレンジック分析

EDRは、サイバー攻撃の詳細なインシデント調査とフォレンジック分析をサポートします。HOYA株式会社が外部専門家と連携してフォレンジック調査を行ったように、EDRを導入することで、攻撃の全貌を迅速かつ正確に把握し、再発防止策を講じるためのデータを提供できます​​。

3. 自動化された防御と復旧

EDRは、攻撃を自動的に防御し、被害を最小限に抑えるための対策を自動化する機能を備えています。HOYA株式会社のような大規模な製造業では、手動対応には限界があるため、EDRによる自動化された対応は非常に有効です。

4. 脅威インテリジェンスの活用

EDRは最新の脅威インテリジェンスを活用して、新たな攻撃手法に対する防御策を常に更新します。これにより、最新の脅威に迅速に対応することができます。

5. サプライチェーン全体のセキュリティ強化

製造業は複雑なサプライチェーンを有しており、その全体のセキュリティを強化することが重要です。EDRは、サプライチェーン全体のエンドポイントを包括的に監視・保護し、連携するパートナー企業のセキュリティも向上させることができます。

まとめ

ランサムウエア攻撃、特に劇場型攻撃は、企業や個人に対する重大な脅威として拡大しています。攻撃者は、データの暗号化だけでなく、公開や多重脅迫を駆使して被害者に圧力をかけます。KADOKAWA社の事例は、その深刻さを物語っています。

このような攻撃に対する対策として、脆弱性の管理、多要素認証の導入、データのバックアップ、セキュリティ意識の向上、インシデント対応計画の策定が重要です。企業や個人は、これらの対策を講じることで、ランサムウエア攻撃のリスクを軽減し、被害を最小限に抑えることが求められます。ランサムウエア攻撃は今後も進化し続けることが予想されるため、常に最新の情報を収集し、適切な対策を講じることが不可欠です。 

参考

  1. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC034JO0T00C24A7000000/ ↩︎
  2. https://www.i3-systems.com/column/about-ransomware ↩︎
  3. https://www.sophos.com/ja-jp/content/state-of-ransomware ↩︎
  4. https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01157/070400114/ ↩︎