近年、サイバー攻撃の標的は多様化し、スポーツ界もその例外ではありません。2024年に入り、プロ野球界を震撼させる出来事が起こりました。人気球団である阪神タイガースが、サイバー攻撃によるデータ漏えいの可能性を公表したのです。この事件は、スポーツ界におけるサイバーセキュリティの重要性を改めて浮き彫りにしました。
本コラムでは、この事例を踏まえつつ、最近のサイバー攻撃と情報漏えいの傾向、そしてその対応策について詳しく見ていきます。
事件の詳細
2024年5月、阪神タイガースは公式サイトを通じて、ファンの個人情報が漏えいした可能性があることを公表しました。この事件は、球団の公式動画配信サービス「虎テレ」のプレゼントキャンペーン応募者の情報が外部からアクセス可能な状態にあったことが原因です。
今回の情報漏えいの原因は、クラウドサービスの設定ミスでした。具体的には、クラウドサービスの環境設定に誤りがあり、外部からアクセス可能な状態になっていたことが判明しました。この設定ミスにより、応募者の個人情報が漏えいするリスクが生じました。
スポーツ界を狙うサイバー攻撃の実態
スポーツ界へのサイバー攻撃は、決して珍しいものではありません。2020年には英国のプレミアリーグクラブがビジネスメール詐欺(BEC)の標的となり、約130万米ドルの被害を受けそうになった事例が報告されています。
また、2018年にはイタリアのプロサッカークラブ「ラツィオ・ローマ」が250万ドル相当の移籍金を窃取される被害に遭いました。
さらに、ランサムウェア攻撃も深刻な脅威となっています。2020年11月には、イングランドの名門クラブ「マンチェスター・ユナイテッド」がランサムウェア攻撃を受け、クラブ運営に支障をきたす事態となりました。
これらの事例から、スポーツ界が金銭目的の攻撃者にとって魅力的な標的となっていることがわかります。特に、高額な移籍金や運営資金を扱うプロスポーツクラブは、攻撃者にとって「おいしい」ターゲットなのです。
2024年の最新サイバー攻撃トレンド
2024年に入り、サイバー攻撃の傾向にはいくつかの特徴が見られます。
- 生成AI活用の攻撃増加
攻撃者が生成AIを用いてマルウェアを作成したり、攻撃を自動化したりする事例が増加しています。これにより、高度なサイバー攻撃がより頻繁に、より多様に、よりオープンになっているのではないかと考えられています。
- ランサムウェア攻撃の継続
2024年上半期のセキュリティインシデントでは、ランサムウェア攻撃が最多となっています。特に製造業や出版・放送・印刷業が標的となる傾向が見られます。
- 大規模な個人情報漏洩
2024年上半期には、数十万から数百万件規模の個人情報漏洩事案が複数報告されています。これらの多くはランサムウェア攻撃に起因するものです。
- 国際的イベントを狙った攻撃
2024年夏にパリで開催される国際的スポーツイベントに関連して、様々なサイバー攻撃のリスクが予測されています。イベント関連のサービスや一般ユーザーが標的となる可能性が高いとされています。
サイバーセキュリティ強化のポイント
これらの脅威に対し、組織はどのように対応すべきでしょうか。
以下に、重要なポイントをまとめます。
- 多層防御の実施
単一の対策だけでなく、ネットワーク、エンドポイント、クラウドなど、複数のレイヤーでセキュリティ対策を講じることが重要です。
こちらもおすすめDX化とは?デジタル技術でビジネスを革新 - エンドポイントセキュリティの強化
特に製造業では、エンドポイント端末の重要性が高まっています。EDRのような、未知のマルウェアを防ぐソリューションの導入を検討しましょう。
- アクセス制御の徹底
組織内部でのアクセス制限を適切に設定することで、被害の拡大を防ぐことができます1。不要なサービスの無効化や、重要資産へのアクセス制限を行いましょう。
- メール誤送信対策とPPAP対策
新しいOutlookに対応したメール誤送信対策やPPAP(パスワード付きZIP)対策を導入することで、情報漏洩リスクを低減できます。
- ファイル共有のセキュリティ強化
メール、オンラインストレージ、チャットサービスなど、多様化するファイル共有手段それぞれのセキュリティリスクを理解し、適切な対策を講じましょう。
- インシデント対応計画の策定
サイバー攻撃を受けた際の対応手順を事前に策定し、定期的に訓練を行うことが重要です。
- 従業員教育の実施
フィッシング攻撃やソーシャルエンジニアリングに対する従業員の意識を高めるため、定期的な教育と訓練を行いましょう。
- パッチ管理の徹底
システムやソフトウェアの脆弱性を悪用した攻撃を防ぐため、常に最新のセキュリティパッチを適用することが重要です。
- サードパーティリスクの管理
サプライチェーンを通じた攻撃も増加しています。取引先や外部サービスのセキュリティ状況を定期的に確認し、必要に応じて改善を求めましょう。
- セキュリティ監視の強化
24時間365日のセキュリティ監視体制を構築し、異常を早期に検知・対応できるようにしましょう。
EDR(エンドポイント検出および対応)の重要性
このような攻撃から企業を守るために、EDR(エンドポイント検出および対応)の導入をおすすめします。EDRの重要性について、以下のポイントを挙げます。
1. 早期検出と迅速な対応
EDRはエンドポイント上での不審な活動をリアルタイムで監視し、異常を即座に検出・対応します。HOYA株式会社が不審な挙動を早期に発見し、迅速にサーバーの隔離を行ったように、EDRは迅速な対応を支援する強力なツールです。
2. 詳細なインシデント調査とフォレンジック分析
EDRは、サイバー攻撃の詳細なインシデント調査とフォレンジック分析をサポートします。HOYA株式会社が外部専門家と連携してフォレンジック調査を行ったように、EDRを導入することで、攻撃の全貌を迅速かつ正確に把握し、再発防止策を講じるためのデータを提供できます。
3. 自動化された防御と復旧
EDRは、攻撃を自動的に防御し、被害を最小限に抑えるための対策を自動化する機能を備えています。HOYA株式会社のような大規模な製造業では、手動対応には限界があるため、EDRによる自動化された対応は非常に有効です。
4. 脅威インテリジェンスの活用
EDRは最新の脅威インテリジェンスを活用して、新たな攻撃手法に対する防御策を常に更新します。これにより、最新の脅威に迅速に対応することができます。
5. サプライチェーン全体のセキュリティ強化
製造業は複雑なサプライチェーンを有しており、その全体のセキュリティを強化することが重要です。EDRは、サプライチェーン全体のエンドポイントを包括的に監視・保護し、連携するパートナー企業のセキュリティも向上させることができます。
スポーツ界特有の対策
スポーツ界、特にプロスポーツチームやイベント運営組織には、以下のような追加対策が推奨されます。
- 選手データの保護
選手の個人情報や医療データなど、センシティブな情報の管理を徹底しましょう。
- チケッティングシステムのセキュリティ強化
オンラインチケット販売システムは攻撃の標的になりやすいため、特に注意が必要です。
- 試合データの暗号化
戦略や戦術に関するデータは、競争上極めて重要です。これらのデータを暗号化して保護しましょう。
- SNSアカウントの管理
選手や公式アカウントのSNS乗っ取りを防ぐため、多要素認証の導入など、アカウント管理を強化しましょう。
- スタジアムのIoTセキュリティ
スマートスタジアム化が進む中、IoTデバイスのセキュリティにも注意を払う必要があります。
まとめ
サイバー攻撃の脅威は、スポーツ界を含むあらゆる業界で高まっています。特に2024年は、生成AIを活用した攻撃の増加や、国際的スポーツイベントを狙った攻撃の可能性など、新たな脅威が予測されています。
組織はこれらの脅威に対し、技術的対策だけでなく、従業員教育や組織体制の整備など、総合的なアプローチでセキュリティ対策を強化する必要があります。また、インシデント発生時の迅速な対応と透明性のある情報公開も重要です。
阪神タイガースのデータ漏えい事案は、スポーツ界全体にとって貴重な教訓となりました。この事例を他山の石とし、各組織がセキュリティ対策を見直す契機としていくことが望まれます。サイバーセキュリティは、もはやスポーツの勝敗を左右する重要な要素の一つとなっているのです。
私たちは、デジタル時代におけるスポーツの発展と、それを支えるセキュリティの重要性を常に意識し、継続的な対策の改善に取り組んでいく必要があります。そうすることで、ファンや選手、そして組織全体の安全を守り、スポーツの真の価値を守ることができるのです。