2024年も終わりが近づき、多くの企業や個人にとってサイバーセキュリティの重要性が改めて浮き彫りとなる年でした。今年はランサムウェア攻撃やDDoS攻撃といった従来型の脅威が続く一方で、生成AIやサイバーフィジカルシステムなどの新しい技術に関連したセキュリティ課題が登場しました。本稿では、印象に残った事件とともに、2024年のサイバーセキュリティトレンドを振り返り、その教訓を探ります。

ランサムウェア攻撃の深刻化

今年、特に大きな話題となったのが企業を標的にしたランサムウェア攻撃です。
その中でもKADOKAWAとイズミを襲った事件は、被害の規模と影響の深刻さから注目を集めました。

KADOKAWAのランサムウェア攻撃

2024年6月8日、KADOKAWAのデータセンターがランサムウェア攻撃を受け、同社の基幹システムや関連サービスが停止しました。この攻撃により、出版事業の出荷部数が3分の1にまで減少。特に、ニコニコ動画を含む動画配信サービスの停止が多くのユーザーに影響を及ぼしました。データ復旧や再構築にかかるコストと時間は、企業全体に大きな打撃を与え、ランサムウェア攻撃の破壊力を改めて認識させられる事件となりました。
同社公式サイト:https://www.kadokawa.co.jp/topics/12088/

イズミのランサムウェア感染

一方、イズミでは2月15日に社内サーバーがランサムウェアに感染。この際、全サーバーの停止やネットワーク遮断が実施され、グループ全体の基幹システムや財務会計システムが使用不能に。復旧までに数か月を要し、小売業界全体にとって教訓となる事例となりました。
同社公式サイト:https://www.izumi.co.jp/corp/ir/pdf/2024/0222news.pdf

これらの事件は、ランサムウェア攻撃の防御が企業規模に関わらず課題であることを示しています。特にサプライチェーンや顧客サービスに大きな影響を及ぼすため、事前の準備と迅速な対応が求められています。


2024年の注目トレンド

サイバーセキュリティの継続的なコンプライアンスの自動化(CCCA)

2024年、サイバーセキュリティ分野ではコンプライアンスの自動化が注目を集めました。CCCA(Cybersecurity Continuous Compliance Automation)は、セキュリティ監査や認証プロセスの効率化を目指す新しいツールで、企業の規制遵守を簡易化します。この技術は、「過度な期待」のピークにあるとされているものの、今後数年で普及する可能性が高いと予測されています。

AIの進化とサイバーリスクマネジメント

AIを活用したサイバーリスク管理も、今年の重要なトピックでした。AIはリアルタイムでの脅威の検知やモニタリングの効率化を可能にし、攻撃への迅速な対応を支援します。特に生成AIは、セキュリティ教育やリスク評価の面で期待されていますが、その一方で攻撃者にも利用されるリスクがあり、倫理的な議論が続いています。

サイバーフィジカルシステム(CPS)のセキュリティ

自動運転車やスマートビルディングに代表されるサイバーフィジカルシステム(CPS)は、便利さを提供する一方で、攻撃の対象となりやすい新たなリスク領域です。今年初めてガートナーのハイプサイクルに登場したCPSリスクマネジメントは、今後さらに重要性を増す分野といえます。

サイバーフィジカルセキュリティ(CPS)とは?
インターネットなどのサイバー空間と、工場の機器や自動車などのフィジカル空間が融合した社会に対するセキュリティのことです。IoTの普及により産業機器や自動車がインターネットにつながり便利になる一方で、サイバー攻撃のリスクも高まっています。安心してこれらの機器を利用するために、CPSの重要性がますます高まっています。

DDoS攻撃の増加

Akamaiの調査によれば、2024年には特にDNSを狙ったDDoS攻撃が増加し、アジア太平洋地域が主なターゲットとなりました。これらの攻撃は地政学的な緊張や国家支援によるサイバー戦争の一環とされ、多層的な防御戦略が不可欠です。


2025年にむけて意識しておくべきこととは?

2024年のサイバーセキュリティ分野での事件とトレンドは、いくつかの重要な教訓を私たちに残しました。

  1. リスク管理の強化
    ランサムウェア攻撃やDDoS攻撃の増加は、基本的なセキュリティ対策の徹底が不可欠であることを示しています。脆弱性を定期的に検査し、バックアップ戦略を策定することが、被害を最小限に抑える鍵となります。
  2. 新技術のバランスの取れた採用
    AIや生成AIといった新しい技術は、セキュリティの強化に役立つ一方で、新たなリスクを生み出す可能性があります。これらを適切に活用するには、倫理的・技術的なガバナンスが求められます。
  3. セキュリティ文化の浸透
    サイバーセキュリティは技術だけではなく、組織全体の文化としても根付かせる必要があります。従業員のトレーニングや教育を通じて、セキュリティ意識を高める取り組みが重要です。

まとめ

2024年はサイバーセキュリティにおける激動の一年でしたが、これらの経験を通じて多くの教訓を得ました。新しい脅威が登場する中、組織や個人はこれまで以上に柔軟で適応力のあるセキュリティ体制を構築する必要があります。

2025年を迎えるにあたり、最新技術と基本的なセキュリティ対策の両立が鍵となるでしょう。