現代社会において、インターネットは不可欠な社会インフラとなっており、サイバー攻撃は深刻な脅威となっています。個人情報の漏洩、サービスの停止、経済的損失など、その被害は多岐にわたり、企業や組織だけでなく、個人にも大きな影響を与えています。

特に近年、巧妙化・大規模化しているのがDDoS攻撃(分散型サービス拒否攻撃)です。DDoS攻撃は、複数のコンピュータからターゲットとなるサーバーやネットワークに対して大量のトラフィックを送信し、サービスを無効化することを目的としています。

その影響範囲は世界中に広がりつつあります。本稿では、DDoS攻撃の概要、仕組み、種類、被害状況、具体的な対策方法、そして近年発生した注目すべき事例について詳細に解説します。

1. DDoS攻撃とは?

1.1 概要と目的
DDoS攻撃(Distributed Denial of Service attack)は、複数のコンピュータからターゲットとなるサーバーやネットワークに対して大量のトラフィックを送信し、サービスを妨害する攻撃手法です。
攻撃者は、大量のトラフィックを送信することで、サーバーやネットワークの処理能力を奪い、本来のユーザーからのアクセス要求を処理できなくします。
これにより、Webサイトやオンラインサービスの利用が困難になり、サービス停止や経済損失、情報漏洩などの被害が発生する可能性があります123

1.2 攻撃の仕組み
DDoS攻撃は、以下のような仕組みで実行されます。攻撃者は、マルウェアに感染したコンピュータ(ボット)を多数用意し、これらのボットを遠隔操作してターゲットとなるサーバーやネットワークに対して大量のアクセス要求を送信します。主な攻撃手法には以下のものがあります

  • UDPフラッド攻撃: 大量のUDPパケットを送信し、サーバーやネットワークの処理能力を奪う。
  • SYNフラッド攻撃: 大量のSYNパケットを送信し、サーバーやネットワークの接続状態を維持するリソースを枯渇させる。
  • アプリケーション層攻撃: 特定のアプリケーションサービスに対して大量のアクセス要求を送信し、サービスを停止させる。

1.3 攻撃の巧妙化と大規模化
近年、DDoS攻撃はより巧妙化・大規模化しており、従来の対策では防ぎきれないケースが増えています。具体的には、以下のような手法が用いられています:

  • ボットネットの利用: 複数のボットを連携させて、より大規模な攻撃を実行する。
  • 反射型DDoS攻撃: 第三者のサーバーを利用して、攻撃対象となるサーバーに大量のトラフィックを送信する。
  • 最新プロトコルを悪用した攻撃: HTTP/2やTLSなどの最新プロトコルを悪用した新たな攻撃手法が開発されている。

2. DDoS攻撃の種類

DDoS攻撃には、主に以下の3種類があります。

2.1 UDPフラッド攻撃
UDPフラッド攻撃は、UDPパケットと呼ばれるデータパケットを大量に送信することで、サーバーやネットワークをダウンさせる攻撃方法です。UDPパケットは接続確立の必要がなく、送信元IPアドレスを偽装できるため、攻撃者が匿名で攻撃を実行することができます。

2.2 SYNフラッド攻撃
SYNフラッド攻撃は、SYNパケットと呼ばれるデータパケットを大量に送信することで、サーバーやネットワークの接続状態を維持するリソースを枯渇させる攻撃方法です。SYNパケットは接続確立時に送信されるパケットであり、サーバーは受け取ったSYNパケットに対してSYN/ACKパケットを送信する必要があります。攻撃者は大量のSYNパケットを送信することで、サーバーがSYN/ACKパケットを送信するリソースを枯渇させ、接続確立を妨害します。

2.3 アプリケーション層攻撃
アプリケーション層攻撃は、特定のアプリケーションサービスに対して大量のアクセス要求を送信することで、サービスを停止させる攻撃方法です。具体的には、以下のような攻撃手法が用いられます。

  • HTTP GET/POSTリクエストの大量送信: Webサイトやアプリケーションに対して大量のアクセス要求を送信することで、サービスを停止させる。
  • SQLインジェクション: Webアプリケーションの脆弱性を悪用して、データベースに不正なSQL文を実行する。
  • ネットワークサービスに対する攻撃: DNSサーバーやルーターなどのネットワークサービスに対して大量のアクセス要求を送信することで、サービスを停止させる。

2.4 その他のDDoS攻撃
近年では、上記以外にも様々なDDoS攻撃の手法が開発されています。具体的には、以下のような攻撃手法が用いられています。

  • IoTデバイスを使った攻撃: マルウェアに感染したIoTデバイスをボットネットとして利用し、DDoS攻撃を実行する。
  • モバイルネットワークを使った攻撃: スマートフォンなどのモバイル端末をボットネットとして利用し、DDoS攻撃を実行する。
  • 反射型DDoS攻撃: 第三者のサーバーを利用して、攻撃対象となるサーバーに大量のトラフィックを送信する。

3. DDoS攻撃の被害とは?

DDoS攻撃は、企業や組織に甚大な被害をもたらします。具体的には、以下のような被害が考えられます。

3.1 サービス停止
DDoS攻撃により、Webサイトやオンラインサービスが利用できなくなることがあります。これは、企業や組織にとって、売上機会の損失や顧客満足度の低下につながります4

3.2 経済損失
DDoS攻撃は、企業や組織に直接的な経済損失を与えます。具体的には、以下のような費用が発生します

  • サービス停止による売上損失
  • システム復旧にかかる費用
  • セキュリティ対策強化のための投資
  • 顧客対応や補償にかかる費用
  • 風評被害による長期的な損失

3.3情報漏洩のリスク
DDoS攻撃自体は直接的に情報を盗むものではありませんが、セキュリティチームの注意をそらすことで、別の攻撃を仕掛けるための隠れ蓑として使われることがあります。DDoS攻撃への対応に追われている間に、マルウェアの侵入やデータ窃取が行われるリスクがあります。

3.4 風評被害
サービス停止や情報漏洩は、企業のブランドイメージを大きく損なう可能性があります。顧客からの信頼を失うことで、長期的な事業への影響が懸念されます。

4. DDoS攻撃の対策方法

DDoS攻撃への効果的な対策には、以下のようなアプローチが考えられます。

4.1 トラフィック分析と異常検知

  • ネットワークトラフィックを常時監視し、異常を早期に検知するシステムを導入する。
  • 機械学習を活用した高度な分析ツールを利用し、攻撃パターンを学習・予測する。

4.2 トラフィックフィルタリング

  • ファイアウォールやIPS (侵入防止システム) を適切に設定し、不正なトラフィックをブロックする。
  • CDN (コンテンツデリバリーネットワーク) を利用し、トラフィックを分散させる。

4.3 スケーラビリティの確保

  • クラウドサービスを活用し、急激なトラフィック増加にも対応できる柔軟なインフラを構築する。
  • ロードバランサーを導入し、複数のサーバーに負荷を分散させる。

4.4 インシデント対応計画の策定

  • DDoS攻撃を想定した対応手順を事前に策定し、定期的に訓練を実施する。
  • ISPやセキュリティベンダーとの連携体制を構築し、迅速な対応を可能にする。

4.5 最新の脅威情報の収集

  • セキュリティ関連の情報共有コミュニティに参加し、最新の攻撃手法や対策について情報を得る。
  • 脆弱性情報を定期的にチェックし、必要なパッチ適用を迅速に行う。

まとめ

DDoS攻撃は、インターネットに依存する現代社会において深刻な脅威となっています。その影響は、単なるサービス停止にとどまらず、経済損失、情報漏洩リスク、ブランドイメージの低下など、多岐にわたります。効果的な対策には、技術的な防御策だけでなく、組織全体でのセキュリティ意識の向上や、インシデント対応計画の策定など、総合的なアプローチが必要です。

また、攻撃手法が日々進化していることを踏まえ、常に最新の脅威情報を収集し、対策を更新し続けることが重要です。DDoS攻撃への対策は、単にリスクを回避するためだけでなく、顧客からの信頼を獲得し、ビジネスの継続性を確保するための重要な投資と捉えるべきです。

今後も、技術の進化や法規制の整備など、様々な観点からDDoS攻撃対策の強化が求められていくでしょう。

  1. https://ja.wikipedia.org/wiki/DoS%E6%94%BB%E6%92%83 ↩︎
  2. https://www.ntt.com/business/services/network/internet-connect/ocn-business/bocn/knowledge/archive_18.html ↩︎
  3. https://www.cloudflare.com/ja-jp/learning/ddos/what-is-a-ddos-attack/ ↩︎
  4. https://www.ntt.com/bizon/glossary/e-d/ddos-kougeki.html ↩︎