サイバー攻撃が企業に与える影響は、近年ますます深刻化しており、その損失は計り知れません。KADOKAWAの2025年3月期第1四半期決算では、その現実が浮き彫りとなりました。同社は、売上高が前年同期比11.9%増の658億6,000万円と増収を達成した一方で、純利益は同10.1%減の34億5,400万円と減少しました。
その要因の一つとして、6月に発生したサイバー攻撃による特別損失が挙げられます。
今回は、このようなサイバー攻撃による損失が企業にどのような影響を与えるのかについて考察します。
サイバー攻撃による損失の実態
KADOKAWAが今回の決算で計上した特別損失は、サイバー攻撃による影響を反映したものです。特に「ニコニコ」サービスをはじめとするWebサービスのクリエイター補償や調査・復旧作業に要した費用として、暫定で20億円が計上されました。この損失は、企業がサイバー攻撃に見舞われた際に直面する多岐にわたる損害の一部に過ぎません。
サイバー攻撃が発生すると、まず直ちに対応しなければならないのはシステムの停止やデータの消失です。今回のケースでは、「ニコニコ」サービスが一時的に停止し、動画コミュニティサービスの減収も相まって、Webサービス事業のセグメント損失は3億9,700万円となり、赤字に転落しました。これは、サイバー攻撃による直接的な経済的損失の一例と言えるでしょう。
サイバー攻撃による間接的な影響
サイバー攻撃が企業に与える損失は、直接的なコストにとどまりません。たとえば、KADOKAWAでは「ニコニコ」サービスの停止がユーザー体験に悪影響を及ぼし、結果として信頼の失墜や顧客離れが進む可能性があります。これにより、将来的な売上の減少や、競合他社への顧客流出といった間接的な損失が発生するリスクが高まります。
さらに、サイバー攻撃が公表されることで、企業のブランドイメージにも大きなダメージが生じます。今回のKADOKAWAのケースでは、既に発表された特別損失に加えて、将来的に発生する可能性のある追加コストや売上の減少を考慮し、通期連結業績見通しを下方修正しています。こうした動きは、投資家や株主に対しても不安を与える要因となり、企業価値の低下につながる恐れがあります。
業績への影響と今後の対策
サイバー攻撃による損失は、企業の業績にも直接的な影響を与えます。KADOKAWAの場合、出版やゲーム事業では好調な業績を維持しつつも、サイバー攻撃による損失が全体の収益に影を落としました。具体的には、2025年3月期の通期連結業績見通しにおいて、売上高は据え置かれたものの、営業利益は9億円減少し、純利益に至っては37億円減少する見通しです。
このような事態を受け、企業としては今後の対策が急務となります。まず、サイバー攻撃に対する防御策の強化が求められます。最新のセキュリティ技術の導入や、従業員のセキュリティ意識を高めるための教育・訓練が必要です。また、万が一の攻撃に備えて、迅速かつ効果的な対応が可能な体制を整えることも重要です。
さらに、サイバー攻撃による損失が発生した場合には、その損失を最小限に抑えるためのリスク管理が求められます。例えば、サイバー保険の導入や、第三者機関による監査を定期的に行うことで、リスクの早期発見と対策が可能となります。
サイバー攻撃による損失を軽減するには?
サイバー攻撃による損失を最小限に抑えるためには、効果的な防御策の導入が不可欠です。特に、近年注目されているEDR(Endpoint Detection and Response)とSOC(Security Operations Center)の組み合わせは、企業のサイバーセキュリティ対策として非常に有効です。もしKADOKAWAがこれらのソリューションを導入していた場合、今回のサイバー攻撃による損失は大幅に軽減されたかもしれません。
EDRは、企業内のエンドポイント(パソコンやサーバーなど)に対する監視と防御を強化するツールで、異常な活動や潜在的な脅威をリアルタイムで検知し、迅速に対応することが可能です。これにより、サイバー攻撃が発生した際には、早期に攻撃を阻止し、被害を最小限に抑えることができます。また、攻撃後の調査や復旧作業も迅速に行えるため、システムダウンやデータ消失による業務停止の時間を短縮でき、結果として損失額を減少させることが期待できます。
一方で、SOCは企業全体のセキュリティ状況を24時間体制で監視し、脅威が検知された場合には迅速に対応する専門チームを指します。SOCを運用することで、企業は常に最新の脅威情報に基づいたセキュリティ対策を維持でき、潜在的な攻撃を未然に防ぐことができます。また、万が一攻撃が発生した場合でも、SOCの専門家が即座に対応し、被害の拡大を防ぐことができます。
KADOKAWAのように広範なWebサービスやシステムを運営する企業にとって、EDRとSOCの導入は、サイバー攻撃への防御力を大幅に向上させるだけでなく、発生した場合の損失も大幅に軽減する手段となり得ます。具体的には、「ニコニコ」サービスが攻撃を受けた際、EDRが攻撃を早期に検知し、SOCが迅速に対応を行えば、サービスの停止時間が短縮され、クリエイター補償や復旧作業にかかるコストも抑えられた可能性があります。
EDR(エンドポイント検出および対応)の重要性
1. 早期検出と迅速な対応
EDRはエンドポイント上での不審な活動をリアルタイムで監視し、異常を即座に検出・対応します。HOYA株式会社が不審な挙動を早期に発見し、迅速にサーバーの隔離を行ったように、EDRは迅速な対応を支援する強力なツールです。
2. 詳細なインシデント調査とフォレンジック分析
EDRは、サイバー攻撃の詳細なインシデント調査とフォレンジック分析をサポートします。HOYA株式会社が外部専門家と連携してフォレンジック調査を行ったように、EDRを導入することで、攻撃の全貌を迅速かつ正確に把握し、再発防止策を講じるためのデータを提供できます。
3. 自動化された防御と復旧
EDRは、攻撃を自動的に防御し、被害を最小限に抑えるための対策を自動化する機能を備えています。HOYA株式会社のような大規模な製造業では、手動対応には限界があるため、EDRによる自動化された対応は非常に有効です。
4. 脅威インテリジェンスの活用
EDRは最新の脅威インテリジェンスを活用して、新たな攻撃手法に対する防御策を常に更新します。これにより、最新の脅威に迅速に対応することができます。
5. サプライチェーン全体のセキュリティ強化
製造業は複雑なサプライチェーンを有しており、その全体のセキュリティを強化することが重要です。EDRは、サプライチェーン全体のエンドポイントを包括的に監視・保護し、連携するパートナー企業のセキュリティも向上させることができます。
まとめ
サイバー攻撃が企業に与える損失は、多岐にわたり、直接的な損失だけでなく、間接的な影響も無視できません。KADOKAWAの事例では、特別損失として計上された20億円や、業績見通しの下方修正がその深刻さを物語っています。今後、企業はサイバー攻撃への防御策を強化するとともに、リスク管理の体制を整えることが求められます。そうすることで、将来的な損失を最小限に抑え、企業の持続的な成長を確保することができるでしょう。