現代社会において、水道システムは私たちの生活に欠かせない重要なインフラです。しかし、インターネットに接続された制御システムの普及に伴い、サイバー攻撃のリスクが高まっています。水道システムへのサイバー攻撃は、飲用水の安全性を脅かし、公共の健康に重大な影響を与える可能性があります。本コラムでは、水道システムが受けたサイバー攻撃の事例とその対策について詳しく解説します。

水道システムへのサイバー攻撃の事例

フロリダ州オールズマー市の事例

2021年2月、米国フロリダ州オールズマー市の水処理施設がサイバー攻撃を受けました。攻撃者はリモートアクセスを利用して水処理システムに侵入し、飲用水に含まれる水酸化ナトリウムの濃度を通常の100ppmから1万1100ppmに変更しました。この濃度は人体に有害であり、もし実行されていれば深刻な健康被害をもたらす可能性がありました。しかし、施設のオペレーターが異常に気づき、設定を元に戻したため実害は避けられました。

長野県阿智村の事例

日本でも2019年10月、長野県阿智村の水道施設がサイバー攻撃を受けました。遠隔監視装置のネットワークがランサムウェアに感染し、水道関連データが改ざんされました。幸いにも、データベースサーバーには侵入されず、職員が早期に異常を発見したため、断水などの実害は避けられましたが、完全復旧までに4か月半を要しました。

サイバー攻撃の影響と脆弱性

水道システムへのサイバー攻撃は、以下のような影響をもたらす可能性があります。

  • 水質の汚染
    攻撃者が水処理プロセスを操作し、有害物質を混入させることで飲用水が汚染されるリスクがあります。
  • 断水
    制御システムが攻撃を受けると、水の供給が停止し、断水が発生する可能性があります。
  • データの改ざん
    水道関連データが改ざんされることで、正確な情報が得られなくなり、適切な対応が困難になります。

これらの影響は、公共の健康や生活に重大な影響を与えるため、水道システムのセキュリティ対策が重要です。

対策と予防策

政府の取り組み

米国では、水道システムのセキュリティ強化のために様々な対策が講じられています。例えば、米国環境保護庁(EPA)は、水道事業者に対してサイバーセキュリティのベストプラクティスを採用するよう推奨しています。また、サイバーセキュリティタスクフォースを設立し、リスク評価と緩和措置の策定を進めています。

技術的対策

  1. セキュリティの層別化
    水道システムのセキュリティを層別化して、侵入者が一つの障壁を突破しても他の層で阻止できるようにする。
  2. エンドポイント保護の強化
    水処理施設を運用するコンピュータシステムに対して、最新のアンチウイルスソフトウェアとマルウェア対策ツールを導入し、常に更新を保つ。
  3. アクセス管理の厳格化
    権限のあるユーザーのみがシステムにアクセスできるように、強力な認証メカニズムを設置する。多要素認証の導入を検討する。
  4. 暗号化技術の導入
    送受信データの暗号化を行い、データが漏洩した場合でも情報が読み取られにくくする。
  5. リアルタイム監視と侵入検知システム
    ネットワークに異常があった場合に即座に検知し、対応できるシステムの導入。

組織的対策

技術的対策に加えて、組織的な対策も重要です。

  • 従業員の教育: サイバーセキュリティに関する教育を従業員に徹底し、セキュリティ意識を高めます。
  • インシデント対応計画の策定
    サイバー攻撃が発生した場合に迅速に対応できるよう、インシデント対応計画を策定し、定期的に訓練を行います。
  • 外部専門家の活用
    サイバーセキュリティの専門家を活用し、システムの脆弱性評価やセキュリティ対策の強化を図ります。

まとめ

水道システムへのサイバー攻撃は、公共の健康と安全に重大な影響を与える可能性があります。フロリダ州オールズマー市や長野県阿智村の事例からも分かるように、サイバー攻撃のリスクは現実のものとなっています。水道システムのセキュリティを強化するためには、技術的対策と組織的対策を組み合わせ、総合的なアプローチが必要です。政府や水道事業者が協力し、サイバーセキュリティのベストプラクティスを採用することで、安全で安心な水の供給を確保することが求められます。