2024年3月19日、YouTubeはAI技術を使用したコンテンツに関する新しいポリシー「改変コンテンツまたは合成コンテンツの使用に関する開示」を導入しました。これは、AI技術の発展に伴い、コンテンツの信頼性や透明性がますます重要になっていることを反映したものです。
本コラムでは、このAI規制の背景と内容、そして今後の展望について考察します。
AI技術の進化と課題
近年、AI技術は目覚ましい進歩を遂げており、動画編集や音楽制作、画像生成など様々な分野で活用されています。YouTubeにおいても、AI技術を使ったコンテンツがますます増えています。
しかし、AI技術の進化は、同時にディープフェイク動画のような偽情報の拡散や、著作権侵害などの問題も生み出しています。AI規制は、こうした問題を解決し、視聴者が安心して動画を楽しめる環境を作るための重要な措置です。
YouTubeにおけるAI規制の内容
今回のAI規制では、クリエイターはAIを使用してコンテンツを生成した場合、動画の説明欄に「改変コンテンツラベル」を追加し、視聴者に開示する必要があります。ラベルには、使用したAIツールの名前、コンテンツの改変内容など、視聴者が理解するのに必要な情報が含まれている必要があります。
開示義務の対象となるのは、以下のいずれかに該当するコンテンツです。
- 実在する人物、場所、出来事だと勘違いしやすい、実物のように見えるコンテンツ
- 例:
- 実在の人物の顔を実在する別人の顔に置き換えたり、合成した人物の声を動画のナレーションとして使用しているコンテンツ
- 実在する建物で実際には発生していない火災が発生しているように見せたり、実在する都市景観を実際とは違って見えるよう改変しているコンテンツ
- 実在する都市に向かって移動している竜巻など、架空の大きな事件をリアルに描写したコンテンツ
- 例:
開示方法
クリエイターは、YouTube Creator Studioで動画の設定画面から、コンテンツが改変または合成されたものであることを開示することができます。
開示には、以下の情報が含まれる必要があります。
- どのような部分に改変や合成が施されているか
- 使用したツールやソフトウェア
- その他、視聴者が理解するのに必要な情報
例外
以下のいずれかに該当するコンテンツは、開示義務の対象外となります。
- 生産性を高める目的で生成AIを利用する場合
- 例:スクリプトの作成、コンテンツのアイデア出し、自動字幕起こしなど、生産性を高めるために生成AIを使用している場合
- 合成されたメディアが明らかに非現実的である場合
- 例:アニメやファンタジーの世界でユニコーンに乗っている人間など、明らかに非現実的なコンテンツ
- 改変自体の重要度が低い場合
- 例:色の調整や照明フィルタ
- 背景ぼかしやビンテージ調などの特殊効果
- 美肌加工フィルターなどの視覚効果
AI規制の影響
情報を開示したコンテンツには、説明欄にラベルが表示されます。医療や健康、ニュース、選挙、金融といったデリケートな内容を扱うコンテンツに関しては、動画プレーヤーにもより目立つ形のラベルが表示されます。
AI規制は、YouTubeのクリエイターと視聴者に様々な影響を与える可能性があります。
クリエイターにとっては、動画制作に新たな手間がかかるようになります。しかし、AI技術を使用していることを透明性を持って開示することで、視聴者の信頼を得ることができ、結果的にチャンネルの成長につながる可能性もあります。
視聴者にとっては、動画の信頼性を判断するための情報が得られるようになります。AI技術によって生成されたコンテンツであることを理解することで、誤情報に惑わされるリスクを減らすことができます。
ラベル表示は段階的に展開予定です。YouTubeによると、まずはスマートフォンアプリから導入し、順次、PCとテレビ向けに拡大していくという。
今後の展望
AI規制は、まだ始まったばかりであり、今後どのように運用されていくのかはまだわかりません。しかし、AI技術の発展に伴い、コンテンツの信頼性を確保するための規制はますます重要になっていくと考えられます。
AI規制は、コンテンツ制作者と視聴者の双方にとって、新しい時代への扉を開くものです。この規制をうまく活用することで、より信頼できる、より豊かな動画視聴体験が実現していくでしょう。
まとめ
AI規制は、YouTubeにおけるコンテンツの透明性と信頼性を高めるための重要な一歩です。しかし、規制だけで問題を解決することはできません。
クリエイターは、倫理的な責任を持ってAI技術を活用する必要があります。視聴者も、AI技術によって生成されたコンテンツであることを認識し、批判的に情報を見極めることが重要です。
AI規制と、クリエイターと視聴者の意識改革によって、より健全な動画プラットフォームを作っていくことができるでしょう。