ランサムウェアによる被害は年々深刻化しており、2024年にはサイバー犯罪エコシステムに影響を及ぼす2つの重要な出来事が発生しました。これにより、犯罪者同士の信頼関係やビジネスモデルが変化し、ランサムウェアの脅威がどのように進化しているのかが浮き彫りになっています。本コラムでは、ランサムウェアの現状とこれらの出来事が与えた影響について解説します。


ランサムウェアのエコシステム:「RaaS」の確立

ランサムウェアの世界は、従来の孤立した攻撃者による犯罪から、「ランサムウェア・アズ・ア・サービス(RaaS)」と呼ばれる複雑なエコシステムへと進化しました。このモデルでは、主に以下のような役割が存在します。

  1. アフィリエイト
    実際に攻撃を仕掛ける犯罪者。
  2. イニシャルアクセスブローカー(IAB)
    攻撃対象への侵入を代行する専門家。
  3. RaaS提供者
    ランサムウェアの開発や配布を担う技術提供者。

RaaSエコシステムでは、アフィリエイトがRaaS提供者からランサムウェアを購入し、IABの支援を受けてターゲットに攻撃を仕掛けます。得られた身代金は関係者間で分配されるという仕組みです。このように、犯罪行為を効率化するエコシステムは、犯罪者同士の信頼関係に基づいて成立していました。


2024年に生じた変化

1. BlackCatグループの出口詐欺

2024年初頭、著名なランサムウェアグループ「BlackCat(別名ALPHV)」が、自身のウェブサイトで「FBIに摘発された」と偽る事件を起こしました。この動きの真相は、アフィリエイトから受け取った攻撃報酬をBlackCatが持ち逃げする「出口詐欺」でした。この事件により、犯罪者間の信頼が揺らぎ、RaaS提供者への不信感が広がりました。

2. LockBit3.0グループの摘発

同年上半期には、世界の法執行機関が「LockBit3.0」を標的にした摘発作戦を実行。この作戦では、LockBit3.0のウェブサイトが押収され、犯罪インフラが解体されました。さらに、法執行機関は犯罪者の追跡や被害者支援のメッセージをウェブサイト上に掲載。犯罪者間に動揺を与え、犯罪活動のリスクが高まったことを示しました。

犯罪者の適応と新勢力の台頭


これらの出来事にもかかわらず、ランサムウェア犯罪全体が縮小したわけではありません。むしろ、RaaS提供者の新勢力が台頭し、犯罪エコシステムは適応を続けています。

例えば、RansomHubという新たなRaaS提供者は、被害者からの身代金回収をアフィリエイトが直接行えるモデルを導入。これにより、アフィリエイトは「持ち逃げ」のリスクがなくなり、信頼を得ています。このようなビジネスモデルの進化は、犯罪者がより効率的に活動できる環境を生み出しています。

攻撃手法の多様化


犯罪者は、ターゲットに侵入する方法や脅迫手法の多様化を進めています。

  • 侵入手法の進化
    IABが提供する侵入手段には、ネットワーク機器の脆弱性悪用やアカウント情報の窃取が含まれます。また、正規のソフトウェアやクラウドサービスを利用することで、セキュリティシステムを回避するケースが増加しています。
  • 脅迫手法の多重化
    暗号化によるデータロックに加え、窃取したデータの公開をちらつかせる手法が主流です。この「二重脅迫」は、被害者にさらなる心理的プレッシャーを与えるため、身代金支払いの成功率を高めています。

被害者の状況と対策の進展


被害者の傾向にも変化が見られます。大規模組織ではセキュリティ対策が進み、ランサムウェア攻撃の対象が小規模組織へとシフトしています。小規模組織は資源が限られており、攻撃に対する耐性が低いことから狙われやすい状況です。

一方で、法執行機関の摘発が犯罪者に与える影響も顕著です。LockBit3.0の摘発後、短期的には被害件数が増加しましたが、9月末時点では減少傾向が確認されています。

今後の展望


2024年の出来事は、RaaSエコシステムの脆弱性を露呈すると同時に、犯罪者が適応力を持っていることを示しました。犯罪エコシステム全体が健在である限り、ランサムウェアの脅威が根本的に消えることはありません。

セキュリティ専門家は、以下のような対策の重要性を指摘しています。

  1. 脆弱性の早期対応
    システムやソフトウェアのアップデートを迅速に行い、攻撃の足掛かりを減らすこと。
  2. 多要素認証(MFA)の導入
    アカウント乗っ取りを防ぎ、ネットワークへの侵入を阻止する。
  3. インシデント対応計画の整備
    攻撃を受けた場合に迅速に対応できる体制を構築すること。

まとめ


ランサムウェアは、犯罪者の進化とともに形を変え、依然として大きな脅威を与えています。2024年に起きたBlackCatの出口詐欺やLockBit3.0の摘発は、犯罪者間の信頼関係を揺るがしましたが、新たな勢力がその空白を埋めつつあります。

組織は、対策を講じることでリスクを低減しつつ、法執行機関やセキュリティ企業との連携を深める必要があります。ランサムウェアとの戦いは依然として続いており、予防と適応が鍵となるでしょう。