近年、サイバー攻撃の手法はますます巧妙化しており、その一環として「水飲み場攻撃(Watering Hole Attack)」が注目されています。この攻撃手法は、特定のターゲットが頻繁にアクセスするウェブサイトを改ざんし、訪問者にマルウェアを感染させるというものです。この記事では、水飲み場攻撃の概要、手口、被害事例、そして防御策について詳しく解説します。

水飲み場攻撃とは

水飲み場攻撃は、サイバー攻撃の一種で、攻撃者がターゲットの習慣を利用して罠を仕掛ける手法です。名前の由来は、野生の肉食動物が水飲み場に集まる獲物を待ち伏せする狩りの手法に似ていることからきています。攻撃者は、ターゲットがよく訪れるウェブサイトを特定し、そのサイトに悪意のあるコードを埋め込みます。ターゲットがそのサイトを訪れると、マルウェアが自動的にダウンロードされ、デバイスが感染します。

水飲み場攻撃の手口

水飲み場攻撃の手口は以下の通りです。

  1. ターゲットの調査
    攻撃者は、ターゲットが頻繁にアクセスするウェブサイトを特定します。これは、業界の特性やターゲットの行動パターンを分析することで行われます。
  2. 脆弱なウェブサイトの特定
    攻撃者は、ターゲットが訪れるウェブサイトの中から、セキュリティが脆弱なサイトを見つけ出します。
  3. ウェブサイトの改ざん
    脆弱なウェブサイトに侵入し、悪意のあるコードを埋め込みます。このコードは、JavaScriptやHTMLなどの形式で埋め込まれることが多いです。
  4. マルウェアの配布
    ターゲットが改ざんされたウェブサイトを訪れると、マルウェアが自動的にダウンロードされます。これにより、ターゲットのデバイスが感染し、攻撃者はデバイスやネットワークにアクセスできるようになります。

被害事例

水飲み場攻撃の被害事例として、以下のようなケースが報告されています。

  • 政府機関職員が狙われた事例
    アメリカ労働省のサイト「Site Exposure Matrices」が攻撃を受け、閲覧者が「Poison Ivy」と呼ばれるマルウェアに感染しました。この攻撃は、Internet Explorerのゼロデイ脆弱性を悪用して行われました。
    参考:https://threatpost.com/watering-hole-attack-claims-us-department-of-labor-website/100081/
  • サンフランシスコ国際空港(SFO)ウェブサイトの事例
    2020年4月、サンフランシスコ国際空港(SFO)のウェブサイトが水飲み場攻撃のターゲットとなりました。この攻撃では、被害者がウェブサイトを訪れると、彼らのデバイスがリモートサーバーに接続し、NTLMハッシュを攻撃者に送信するように仕向けられました。攻撃者はこれらのハッシュをオフラインで解析し、ユーザー名やパスワードを取得することができました。この攻撃は、ウクライナやカナダの複数のウェブサイトでも同様の手法で行われたと報告されています
    参考:https://blog.lumen.com/newly-discovered-watering-hole-attack-targets-ukrainian-canadian-organizations/

水飲み場攻撃の対策

水飲み場攻撃を防ぐためには、以下の対策が有効です。

  • ウイルス対策ソフトの導入
    高度なウイルス対策ソフトを使用し、デバイスを保護します。特に、機械学習を利用して新しいマルウェアを検出するソフトウェアが有効です。
  • インターネットトラフィックの監視
    ネットワークトラフィックを監視し、不審な活動を早期に検出します。
  • VPNの使用
    公共のWi-Fiを使用する際には、VPNを利用して通信を暗号化し、セキュリティを強化します。
  • ソフトウェアの最新化
    OSやアプリケーションを常に最新の状態に保ち、既知の脆弱性を修正します。
  • サイバーセキュリティ教育
    従業員に対してサイバーセキュリティの教育を行い、攻撃手法や対策についての知識を深めます。

水飲み場攻撃とフィッシング攻撃の違いとは?

サイバー攻撃には多種多様な手法がありますが、その中でも特に注目されるのが「水飲み場攻撃」と「フィッシング攻撃」です。これらはどちらも攻撃者がターゲットの情報を盗むために用いる手法ですが、そのアプローチや実行方法には大きな違いがあります。以下に、両者の違いを詳しく説明します。

水飲み場攻撃(Watering Hole Attack)

水飲み場攻撃は、特定のターゲットが頻繁に訪れるウェブサイトを改ざんし、訪問者にマルウェアを感染させる攻撃手法です。名前の由来は、動物が水飲み場に集まる習性を利用して待ち伏せする捕食者の行動に似ていることから来ています。

手法

  1. ターゲットの調査: 攻撃者は、ターゲットが頻繁にアクセスするウェブサイトを特定します。
  2. ウェブサイトの改ざん: 脆弱性を突いてウェブサイトに侵入し、悪意のあるコードを埋め込みます。
  3. マルウェアの配布: ターゲットが改ざんされたウェブサイトを訪れると、マルウェアが自動的にダウンロードされ、デバイスが感染します。

特徴

  • 広範なターゲット: 特定のウェブサイトを訪れる全てのユーザーが対象になります。
  • ゼロデイ脆弱性の利用: 新たに発見された脆弱性を利用することが多いです。
  • 間接的な攻撃: 直接ターゲットに接触するのではなく、ターゲットが訪れるウェブサイトを介して攻撃します。

フィッシング攻撃(Phishing Attack)


フィッシング攻撃は、信頼できる機関や個人になりすましたメールやメッセージを送り、受信者に機密情報を入力させたり、マルウェアをダウンロードさせたりする手法です。

手法

  1. 偽装メールの送信: 攻撃者は、銀行や企業、友人などを装ったメールをターゲットに送信します。
  2. リンクのクリック誘導: メール内のリンクをクリックさせ、偽のウェブサイトに誘導します。
  3. 情報の入力: 偽のウェブサイトで個人情報やログイン情報を入力させます。
  4. マルウェアの配布: メールに添付されたファイルを開かせ、マルウェアをダウンロードさせます。

特徴

  • 個別のターゲット: メールを受け取った個人が主なターゲットです。
  • 社会工学的手法: 人間の心理を利用して情報を引き出す手法です。
  • 直接的な攻撃: ターゲットに直接メールを送信し、行動を促します。

水飲み場攻撃とフィッシング攻撃は、どちらもサイバー犯罪者が情報を盗むために用いる手法ですが、そのアプローチや実行方法には大きな違いがあります。水飲み場攻撃は、特定のウェブサイトを改ざんして広範なユーザーを狙うのに対し、フィッシング攻撃は個別のターゲットに直接メールを送り、社会工学的手法を用いて情報を引き出します。どちらの攻撃も防ぐためには、ウェブサイトのセキュリティ強化や従業員への教育が不可欠です。

比較表

特徴水飲み場攻撃フィッシング攻撃
攻撃対象特定のウェブサイトを訪れる全てのユーザーメールを受け取った個人または小グループ
攻撃手法ウェブサイトの改ざんを通じてマルウェアを配布偽装メールを通じて情報を引き出す、またはマルウェアを配布
ゼロデイ脆弱性の利用高い低い
直接/間接間接的直接的
社会工学の利用低い高い

まとめ

水飲み場攻撃は、ターゲットの習慣を利用して罠を仕掛ける巧妙なサイバー攻撃です。この攻撃手法は、特定のターゲットが頻繁に訪れるウェブサイトを改ざんし、マルウェアを配布することで行われます。被害を防ぐためには、ウイルス対策ソフトの導入やインターネットトラフィックの監視、VPNの使用、ソフトウェアの最新化、そしてサイバーセキュリティ教育が重要です。企業や個人がこれらの対策を講じることで、水飲み場攻撃からの被害を最小限に抑えることができます。

 このコラムでは、水飲み場攻撃の基本的な概要から具体的な手口、被害事例、そして防御策までを網羅的に解説しました。サイバーセキュリティの重要性がますます高まる中、適切な対策を講じることが求められています。