2024年パリオリンピック・パラリンピックの開催が近づくにつれ、サイバーセキュリティの重要性がこれまで以上に高まっていました。東京2020大会の経験を踏まえつつ、パリ大会では新たな脅威に対応するため、より包括的な対策が講じられています。
なぜ五輪が狙われるの?
オリンピックがサイバー攻撃の格好の標的となる理由は、その国際的な影響力と複雑な運営体制にあります。世界中の注目を集めるこの一大イベントは、攻撃者にとって絶好の機会を提供しています。
まず、オリンピックの持つ政治的・経済的な重要性が、様々な動機を持つ攻撃者を引き付けます。国家間の緊張関係を背景とした政治的な攻撃や、チケット詐欺などの金銭的利益を狙った犯罪が発生しやすい環境となっています。また、大会運営を妨害し、開催国や国際オリンピック委員会の信用を失墜させることを目的とした攻撃も考えられます。
さらに、大会運営に必要な一時的なインフラ構築や新技術の導入が、セキュリティの脆弱性を生み出す要因となっています。5Gなどの最新技術の採用は、未知のリスクをもたらす可能性があります。
過去のオリンピックでの攻撃実績も、攻撃者にとっては大きな動機付けとなっています。これまでの成功例が、新たな攻撃を誘発する悪循環を生んでいるのです。
2024年のパリオリンピックでは、東京大会の約10倍にあたる35億件ものサイバー攻撃が予想されると言われています。この数字は、オリンピックがいかにサイバー攻撃の標的となりやすいかを如実に示しています。
このように、オリンピックを狙うサイバー攻撃の背景には、政治、経済、技術、そして過去の実績など、複数の要因が複雑に絡み合っています。大会の成功には、これらの多面的なリスクに対する包括的なセキュリティ対策が不可欠となっています。
東京2020大会からの教訓
2021年に開催された東京オリンピック・パラリンピックでは、約4億5千万件のサイバー攻撃が発生しましたが、大きな被害を防ぐことができました。この成功の要因として以下が挙げられます。
- 徹底した事前準備と予防策
- インテリジェンス駆動の防御
- 国際的な協力体制の構築
- 実践的なサイバー防御演習の実施
パリ2024大会が直面する新たな脅威
パリ大会では、東京大会の約10倍にあたる35億件ものサイバー攻撃が予想されています。この劇的な増加の背景には、以下の要因があります。
- デジタル接続性の向上
チケッティングやコミュニケーション、イベント管理などのデジタルインフラへの依存度が高まり、攻撃の入口が増加しています。 - 攻撃手法の高度化
サイバー犯罪者はAIなどの先端技術を駆使し、より洗練された攻撃を仕掛けるようになっています。 - 地政学的緊張
国際的な緊張関係が高まる中、国家支援型のサイバー攻撃のリスクが増大しています。
五輪に向けたサイバーセキュリティ対策
フランス政府は「前例のない脅威レベル」に直面していることを認識し、以下のような包括的な対策を講じることが重要だと言われています。
- サイバー脅威に関する知識の向上
大会関係者や一般市民向けの啓発活動を強化しています。 - 重要情報システムの保護
大会運営に不可欠なシステムのセキュリティを強化しています。 - 機密データの保護
選手や観客の個人情報など、センシティブなデータの保護に注力しています。 - 大会エコシステム全体の意識向上
関係者全体のセキュリティ意識を高めるための取り組みを行っています。 - サイバー攻撃への対応準備
攻撃発生時の迅速な対応体制を整備しています。
具体的な取り組みとは?
- セキュリティ・オペレーション・センター(SOC)の設置
24時間体制でオリンピック関連のデジタルエコシステムを監視します。 - 国際的な連携
Cisco、Eviden、Alibaba、Deloitteなどの大手テクノロジー企業や政府機関と協力し、サイバー脅威への対策を強化しています。 - 倫理的ハッカーの活用
システムの脆弱性を発見するため、倫理的ハッカーによるストレステストを実施しています。 - AIの活用
脅威の分類や優先順位付けにAIを活用し、効率的な対応を目指しています。 - デジタルチケットの導入
チケットの偽造防止と管理効率化のため、100%デジタルチケットを採用しています。
観客や参加者への注意喚起
パリ大会に参加する観客や選手に対しても、以下のような注意喚起が行われています。
- 二要素認証の利用
- 公共Wi-Fiの使用時の注意
- 不審なアプリやウェブサイトへの警戒
- フィッシング詐欺への注意
まとめ
パリ2024オリンピック・パラリンピックは、サイバーセキュリティの観点から見ても、これまでにない挑戦に直面しています。東京大会の成功を踏まえつつ、新たな脅威に対応するため、より包括的かつ高度な対策が講じられています。
しかし、サイバーセキュリティは主催者側の努力だけでなく、参加者一人ひとりの意識と行動も重要です。大会の成功には、全ての関係者が協力してサイバーセキュリティに取り組む必要があります。
パリ大会のサイバーセキュリティ対策の成否は、今後のメガスポーツイベントにおけるデジタルセキュリティの在り方に大きな影響を与えるでしょう。技術の進歩とともに変化し続けるサイバー脅威に対し、常に先を見据えた対策を講じていくことが求められています。