インターネットが私たちの日常生活に深く浸透した現代社会において、サイバーセキュリティの重要性は日に日に高まっています。その中でも特に注意が必要な脅威の一つが「ドライブバイダウンロード攻撃」です。この攻撃手法は、ユーザーが気づかないうちにマルウェアに感染させられるという点で非常に危険です。本コラムでは、ドライブバイダウンロード攻撃の仕組みや特徴、具体的な事例、そして効果的な対策方法について詳しく解説していきます。
ドライブバイダウンロード攻撃とは
ドライブバイダウンロード攻撃(Drive-by Download Attack)とは、ユーザーがWebサイトを閲覧しただけで、自動的にマルウェアをダウンロードさせ、インストールさせる攻撃手法です1 2。この攻撃の特徴は、ユーザーの操作や許可を必要とせず、知らないうちに感染が完了してしまうことにあります。
攻撃者は主に、OSやWebブラウザ、アプリケーションなどの脆弱性を悪用してこの攻撃を仕掛けます。ユーザーが脆弱性のあるソフトウェアを使用している場合、攻撃者が用意した悪意のあるコードが自動的に実行され、マルウェアがインストールされてしまうのです3。
ドライブバイダウンロード攻撃の仕組み
ドライブバイダウンロード攻撃の一般的な流れは以下の通りです。
- 攻撃者が脆弱性のあるWebサイトを見つけ、改ざんする
- ユーザーが改ざんされたWebサイトを訪問する
- 不正なプログラムが実行される(攻撃者が用意した別のサイトに遷移することもある)
- ユーザーの端末にマルウェアがダウンロード、インストールされる
この攻撃の厄介な点は、正規のWebサイトが改ざんされて攻撃に利用されることです。ユーザーが普段から利用している有名サイトや大手企業のホームページが攻撃の踏み台となることもあり、感染に気づきにくいという特徴があります。
ドライブバイダウンロード攻撃の種類
ドライブバイダウンロード攻撃には、主に以下の2つの手法があります4。
- Webサイトの改ざん
攻撃者がWebサイトの脆弱性を突いて不正アクセスし、マルウェアをダウンロードさせるコードを埋め込みます。 - 不正広告の利用
正規の広告配信ネットワークを通じて、マルウェアをダウンロードさせる不正な広告(マルバタイジング)を配信します。
これらの手法は、ユーザーが安全だと思っているWebサイトを通じて攻撃を仕掛けるため、非常に効果的です。
ドライブバイダウンロード攻撃の危険性
ドライブバイダウンロード攻撃が成功すると、以下のようなリスクが発生します5。
- 情報漏洩
個人情報や機密情報が外部に流出する可能性があります。 - システム乗っ取り
攻撃者がシステムを遠隔操作し、さらなる攻撃の踏み台として利用される恐れがあります。 - データの改ざんや破壊
重要なデータが改ざんされたり、破壊されたりする可能性があります。 - 金銭的被害
ランサムウェアに感染した場合、身代金を要求される可能性があります。 - 信用の失墜
企業がこの攻撃を受けた場合、顧客や取引先からの信頼を失う可能性があります。
これらのリスクは、個人ユーザーだけでなく、企業や組織にとっても深刻な問題となります。
具体的な被害事例
ドライブバイダウンロード攻撃の代表的な事例として、2010年に大流行した「ガンブラー(Gumblar)」攻撃が挙げられます6。この攻撃では、日本の大手企業のWebサイトを含む多数のサイトが改ざんされ、多くのユーザーがマルウェアに感染しました。ガンブラー攻撃の特徴は以下の通りです。
- FTPアカウントの窃取
攻撃者はリスト型攻撃や総当たり攻撃によってFTPアカウントを盗み出し、Webサイトを改ざんしました。 - 正規サイトの悪用
改ざんされたサイトには、一見して問題がないように見えるJavaScriptコードが埋め込まれていました。 - 複数の脆弱性の悪用
Adobe ReaderやFlash Playerなど、複数のソフトウェアの脆弱性を悪用してマルウェアをダウンロードさせました。
この事例は、ドライブバイダウンロード攻撃の危険性と、適切な対策の重要性を示しています。
ドライブバイダウンロード攻撃への対策
ドライブバイダウンロード攻撃から身を守るためには、Webサイトの運営者側とユーザー側の双方が適切な対策を講じる必要があります7。
Webサイト運営者側の対策
ユーザー側の対策
- OSやソフトウェアの更新
使用しているOS、Webブラウザ、プラグインなどを常に最新の状態に保ちます。 - セキュリティソフトの導入8
信頼できるアンチウイルスソフトやファイアウォールを導入し、常に最新の状態に保ちます。 - 不審なサイトへのアクセス制限
信頼できないWebサイトや、セキュリティ警告が表示されたサイトへのアクセスを避けます。 - 広告ブロッカーの利用
不正広告によるマルウェア感染のリスクを軽減します。 - セキュリティ意識の向上
従業員に対してセキュリティ教育を実施し、攻撃の手口や対策について理解を深めます。
EDR(エンドポイント検出および対応)の重要性
このような攻撃から企業を守るために、EDR(エンドポイント検出および対応)の導入をおすすめします。EDRの重要性について、以下のポイントを挙げます。
1. 早期検出と迅速な対応
EDRはエンドポイント上での不審な活動をリアルタイムで監視し、異常を即座に検出・対応します。HOYA株式会社が不審な挙動を早期に発見し、迅速にサーバーの隔離を行ったように、EDRは迅速な対応を支援する強力なツールです。
2. 詳細なインシデント調査とフォレンジック分析
EDRは、サイバー攻撃の詳細なインシデント調査とフォレンジック分析をサポートします。HOYA株式会社が外部専門家と連携してフォレンジック調査を行ったように、EDRを導入することで、攻撃の全貌を迅速かつ正確に把握し、再発防止策を講じるためのデータを提供できます。
3. 自動化された防御と復旧
EDRは、攻撃を自動的に防御し、被害を最小限に抑えるための対策を自動化する機能を備えています。HOYA株式会社のような大規模な製造業では、手動対応には限界があるため、EDRによる自動化された対応は非常に有効です。
4. 脅威インテリジェンスの活用
EDRは最新の脅威インテリジェンスを活用して、新たな攻撃手法に対する防御策を常に更新します。これにより、最新の脅威に迅速に対応することができます。
5. サプライチェーン全体のセキュリティ強化
製造業は複雑なサプライチェーンを有しており、その全体のセキュリティを強化することが重要です。EDRは、サプライチェーン全体のエンドポイントを包括的に監視・保護し、連携するパートナー企業のセキュリティも向上させることができます。
最新のトレンドと今後の展望
ドライブバイダウンロード攻撃は、技術の進化とともに巧妙化しています。
最近のトレンドとしては以下のようなものが挙げられます。
- 攻撃の高度化
攻撃者はより高度な技術を用いて、検出を回避しようとしています。 - モバイルデバイスへの攻撃増加
スマートフォンやタブレットを標的とした攻撃が増えています。 - ゼロデイ脆弱性の悪用
未知の脆弱性を狙った攻撃が増加しています。 - AIの活用
攻撃者側もAIを活用して、より効果的な攻撃を仕掛けようとしています。
これらのトレンドを踏まえ、今後はより包括的かつ動的なセキュリティ対策が求められるでしょう。例えば、AIを活用した異常検知システムの導入や、ゼロトラストセキュリティの考え方に基づいたネットワーク設計などが重要になると考えられます。
まとめ
ドライブバイダウンロード攻撃は、ユーザーが気づかないうちにマルウェアに感染させられるという点で非常に危険な脅威です。この攻撃から身を守るためには、Webサイトの運営者とユーザーの双方が適切な対策を講じる必要があります。具体的には、以下の点に注意が必要です。
- OSやソフトウェアを常に最新の状態に保つ
- 信頼できるセキュリティソフトを導入し、定期的にスキャンを行う
- 不審なWebサイトへのアクセスを避ける
- セキュリティ意識を高め、最新の脅威について情報を収集する
インターネットが私たちの生活に不可欠なものとなった現在、サイバーセキュリティへの意識を高め、適切な対策を講じることがますます重要になっています。ドライブバイダウンロード攻撃への対策を通じて、安全なオンライン環境を維持していくことが求められています。
参考
- https://eset-info.canon-its.jp/malware_info/special/detail/220531.html ↩︎
- https://jp.norton.com/blog/malware/drive-by-download ↩︎
- https://office110.jp/security/knowledge/cyber-attack/drive-by-download-attack ↩︎
- https://siteguard.jp-secure.com/blog/drive-by-download/ ↩︎
- https://cybersecurity-jp.com/column/23408 ↩︎
- https://siteguard.jp-secure.com/blog/drive-by-download/ ↩︎
- https://www.lanscope.jp/blogs/cyber_attack_cpdi_blog/20240130_18513/ ↩︎
- https://www.lrm.jp/security_magazine/drive-by-download/ ↩︎