イランは近年、サイバー攻撃の分野で注目を集めており、その活動は国内外で多岐にわたります。サイバー攻撃の目的は、国家の安全保障、政治的影響力の拡大、経済的利益の追求など多岐にわたります。
本コラムでは、イランにおけるサイバー攻撃の現状と課題について詳しく解説します。

サイバー攻撃の現状

イランのサイバー攻撃能力

イランは、サイバー攻撃能力を急速に向上させてきました。特に、イラン革命防衛隊(IRGC)やその他の国家機関が主導する形で、サイバー戦争の準備が進められています。イランのサイバー攻撃は、イスラエルやアメリカなどの敵対国をターゲットにすることが多く、その手法は多岐にわたります。
例えば、2024年2月には、アメリカが紅海やアデン湾で貨物船の情報収集を行っていたイラン軍の艦船に対してサイバー攻撃を実施しました。この攻撃は、イランが支援するフーシ派と情報を共有できないようにすることを目的としていました1

イスラエルとの対立

イランとイスラエルの間では、サイバー攻撃が頻繁に行われています。2024年4月には、イランがイスラエルに対して大規模な攻撃を行い、イスラエルも報復としてサイバー攻撃を検討しています2 3。このような攻撃の応酬は、両国の緊張を一層高めています。

イスラエルは、イランからの攻撃に対して高度な防御システムを駆使しており、攻撃の99%を迎撃することに成功しています。しかし、イランの攻撃は依然として続いており、両国間のサイバー戦争は激化の一途をたどっています。

国内インフラへの影響

イラン国内でも、サイバー攻撃の影響は深刻です。例えば、燃料供給システムや鉄道管制システム、航空会社などが攻撃の対象となり、一般市民の生活に大きな影響を及ぼしています4。これに対して、イラン側もイスラエルのインフラを攻撃することで報復しています。

イランにおけるサイバー攻撃被害事例

スタクスネット(Stuxnet)攻撃

2009年から2010年にかけて、イランの核開発施設が「スタクスネット」と呼ばれる高度なコンピュータワームによって攻撃されました。このワームは、ウラン濃縮用の遠心分離機を物理的に破壊することを目的としており、実際に大きな被害をもたらしました。

スタクスネットは、インターネットに接続されていない産業用制御システムに対してもUSBメモリを介して感染することができました。この攻撃により、イランの核燃料施設で使用されていた遠心分離機が破壊され、核開発プログラムに大きな遅延をもたらしました。
引用:https://edition.cnn.com/2010/TECH/web/11/17/stuxnet.virus/index.html

ナタンズ核施設の爆発

2021年4月、イランのナタンズ核施設で爆発が発生しました。この爆発はサイバー攻撃によるものと疑われており、イスラエルの関与が指摘されています 。

この爆発により、施設の電源設備が完全に破壊され、ウラン濃縮に使用される遠心分離機が停止しました。イラン政府はこの攻撃をイスラエルによるものと非難し、イスラエルの情報機関モサドが関与している可能性が高いとされています。
参考:https://www.bbc.com/news/world-middle-east-56708778

ガソリンスタンドと鉄道システムへの攻撃

2021年には、イラン国内のガソリンスタンドや鉄道システムがサイバー攻撃の対象となり、大規模な混乱が発生しました。

「プレデトリー・スパロウ」と呼ばれるハッカー集団が、イランのガソリンスタンドを繰り返し機能不全に陥れ、鉄道システムにも攻撃を仕掛けました。鉄道の時刻表には「サイバー攻撃のため長時間遅延」といったメッセージが表示され、イランの最高指導者アリ・ハメネイの事務所の電話番号が表示されるなど、混乱が広がりました。

まとめ

イランにおけるサイバー攻撃の現状は、国内外で多岐にわたる活動が行われており、その影響は深刻です。特に、イスラエルやアメリカとの対立が激化しており、これがサイバー戦争の一因となっています。一方で、イラン自身も多くの課題を抱えており、防御体制の強化や技術的な遅れの克服が急務です。今後、イランがどのようにしてこれらの課題を克服し、サイバー戦争に対応していくのかが注目されます。国際社会も、イランの動向を注視しつつ、適切な対応を取ることが求められています。