近年、サイバー空間における脅威が急速に増大し、国家の安全保障や経済活動に深刻な影響を及ぼす事態が頻発しています。こうした状況下で、日本政府はサイバーセキュリティ強化に向けた取り組みを加速させています。本稿では、最新の政府施策を紹介しながら、その意義と課題について考察します。

「常時有事」時代のサイバーセキュリティ

自由民主党は最近、サイバー空間を「常時有事」の状態にあると位置づけ、サイバーセキュリティ強化に向けた提言を行いました1。この認識は、サイバー攻撃が日常的に発生し、国家の安全や経済活動を常に脅かしている現状を端的に表現しています。実際、2023年には多くのセキュリティインシデントが報告されました。トレンドマイクロの報告によると、ランサムウェア攻撃や重要インフラを狙った攻撃が増加しており、2024年に向けてさらなる対策強化が必要とされています2

IoTデバイスのセキュリティ強化

政府は2025年度から、IoT(モノのインターネット)機器のサイバーセキュリティ対策を強化するため、安全性評価制度を開始する予定です3。この制度は、IoT機器の製造業者や輸入業者に対し、セキュリティ基準を満たしていることを示す「適合マーク」の取得を義務付けるものです。IoT機器の普及に伴い、これらのデバイスを通じたサイバー攻撃のリスクが高まっています。家電や産業機器など、日常生活や経済活動に密接に関わる機器が攻撃の対象となれば、その影響は甚大です。政府の新制度は、IoT機器のセキュリティレベルを底上げし、安全なデジタル社会の構築を目指す重要な一歩と言えるでしょう。

重要インフラの防御強化

サイバー攻撃の標的として特に懸念されるのが重要インフラです。電力、通信、金融など、社会の基盤となるシステムへの攻撃は、国民生活に直接的な影響を及ぼします。この課題に対し、SIEM(Security Information and Event Management)を活用した官民の情報連携が重要視されています4SIEMは、様々なセキュリティ機器やシステムからのログを一元管理し、リアルタイムで脅威を検知・分析するツールです。重要インフラ事業者と政府機関が、SIEMを通じてセキュリティ情報を共有することで、攻撃の早期発見と迅速な対応が可能になります。

産業界との連携強化

サイバーセキュリティの強化には、政府だけでなく民間企業の協力が不可欠です。特に、重要インフラや先端技術を扱う産業分野での対策強化が急務となっています。例えば、建設業界では日本建設業連合会(日建連)がサイバーセキュリティ強化を呼びかけています5。建設業がサイバー犯罪のターゲットになるリスクが高まっているという認識のもと、業界全体でのセキュリティ意識向上と対策強化を推進しています。政府は、こうした産業界の自主的な取り組みを支援するとともに、重要技術の流出防止や知的財産保護の観点から、産学官連携によるセキュリティ対策の枠組み作りを進めています。

グローバル企業との協力

サイバーセキュリティ対策では、グローバル企業との協力も重要な要素です。例えば、Googleは日本を含む世界各国で、最新のセキュリティ技術を活用した取り組みを展開しています6。AIを活用した脅威検知や、エンドツーエンドの暗号化技術など、先進的なセキュリティソリューションの導入は、国全体のサイバーセキュリティレベルを向上させる上で大きな役割を果たします。政府は、こうしたグローバル企業の知見や技術を積極的に取り入れ、国内のセキュリティ対策に活かしていく必要があります。

人材育成と啓発活動

サイバーセキュリティ対策の要となるのは、結局のところ「人」です。高度なセキュリティ技術を開発・運用できる専門家の育成は、国家の重要課題の一つです。政府は、大学や専門機関と連携し、サイバーセキュリティ人材の育成プログラムを強化しています。また、一般市民向けの啓発活動も重要です。「サイバーセキュリティ対策 2024 夏」のようなイベント7を通じて、最新の脅威動向や対策について広く情報発信を行っています。

今後の課題と展望

政府のサイバーセキュリティ強化策は着実に進展していますが、課題も少なくありません。

  1. 予算と人材の確保: 高度化・複雑化するサイバー攻撃に対応するには、継続的な投資と専門人材の確保が不可欠です。限られた予算の中で、いかに効果的な資源配分を行うかが課題となります。
  2. 技術革新への対応: AI技術の発展に伴い、サイバー攻撃の手法も高度化しています。政府は最新技術のセキュリティリスクを常に評価し、対策を更新し続ける必要があります。
  3. 国際協調の推進: サイバー空間に国境はありません。国際的な法整備や、各国間での情報共有・協力体制の構築が、今後ますます重要になるでしょう。
  4. プライバシーとセキュリティのバランス: セキュリティ強化と個人情報保護のバランスをどう取るか。監視社会化への懸念を払拭しつつ、効果的な対策を講じることが求められます。
  5. レジリエンスの強化: 完璧な防御は不可能です。攻撃を受けた際の被害最小化と迅速な復旧能力(レジリエンス)の強化が、今後の重要なテーマとなるでしょう。

まとめ

サイバー空間の脅威は、国家の安全保障や経済活動に直結する重大な問題です。政府のサイバーセキュリティ強化策は、こうした脅威に対する国家レベルの対応として極めて重要です。しかし、政府の取り組みだけでは十分ではありません。企業、教育機関、そして私たち一人一人が、サイバーセキュリティの重要性を認識し、それぞれの立場で対策を講じていく必要があります。デジタル社会の発展と安全性の確保。この二つを両立させることが、これからの日本の大きな課題であり、また機会でもあります。政府のサイバーセキュリティ強化策を軸に、官民一体となった取り組みが、今まさに求められているのです。

参考

  1. https://www.jimin.jp/news/information/208009.html ↩︎
  2. https://www.trendmicro.com/ja_jp/jp-security/23/l/securitytrend-20231220-01.html ↩︎
  3. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240318/k10014393831000.html ↩︎
  4. https://dcross.impress.co.jp/docs/column/column20240314/003586.html ↩︎
  5. https://built.itmedia.co.jp/bt/articles/2402/01/news079.html ↩︎
  6. https://blog.google/intl/ja-jp/company-news/technology/safer-with-google-march-2024/ ↩︎
  7. https://www.sbbit.jp/eventinfo/79290 ↩︎